大切なものをたいせつに

北極海航海に2度いくほど海が好き。 疑問に思ったことは自分の目で見て感じて確かめたい、と17歳でイギリスに1年間滞在、その後、北極海研究船に2度乗船する。メーカー勤務、大学勤務の中でその場で「話の見える化」を行うグラフィックファシリテーションと出会う。会議、ワークショップ、講演会、教育現場等、これまでに500以上のの現場に携わる。発達凸凹への活用を中心として、組織開発や教育現場での活用法を探求している。 https://www.tagayasulab.com/graphicfacilitation

運営企画視点から〜グラフィックファシリテーションを学会に取り入れる試みから見えてきた課題

2018年3月に開催された第15回情報コミュニケーション学会全国大会では、初の試みとしてグラフィックファシリテーションが導入されました。

 

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 写真:西尾 信大様 

 

当日の詳細はこちら

sayo-dem.hatenablog.com

 

 

第15回情報コミュニケーション学会全国大会の実行責任者である畑先生には、導入検討段階から本当にお世話になり、何度も「何のために学会グラフィックを導入するか」ということについて話し合う機会をいただきました。グラフィックを知らない方や実行委員のみなさんへの説明や、どうしたら双方向コミュニケーションを生み出せるか。グラフィックチームが機能するために必要なことや、参加者への配慮など、あらゆることを一緒になって考えてくださり、細やかに気遣ってくださりました。

 

10 代から 50 代までの年齢、職種 等様々な15 名のグラフィック経験者が集まりチームを組み、学会側の目的に合わせて、どんな場にすることをめざしたのか。結果としてどのような場になったのか。畑先生が、企画者側の視点からまとめてくださりました。情報コミュニケーション学会第 24 回研究会でご報告された内容の公開を快く承諾くださったので、こちらで紹介させていただきます^ ^

 

グラフィックファシリテーションを含むVisual Toolはとてもパワフルで影響力があります。見た目が華やかだからこそ、なぜ活用するのか目的をしっかりと握っておかないとパフォーマーのようになることもある。

 

今回の本文中でも触れられていますが、グラフィックを描くことだけでなく、どんな目的で活用するか、どの場面で活用するか、誰に対してどのような影響を及ぼしそうか等、事前に把握して準備をする必要があります。

 

今回の学会でも決して良い意見だけでなく、厳しい意見もいただきました。

 

え!こわい!といって遠ざけたり、批判してみるのは簡単だけど、どんなものにも良い面もあれば気をつけないといけない面がある。

 

万能薬はないから。

副作用も考えながら。

 

これからVisual Toolを活用したいと思っている人のヒントになればという想いで、良い面も課題点も共有できるようにこちらに掲載します。

 

ペンを持つ人にも読んでほしいですが、

パワフルさに気づき、これからグラフィックを活用した場づくりを検討されている方にも読んでいただきたい内容です^ ^

 

  

 ※以降の引用はすべて以下の文献を使用しています。

<参考文献>

畑耕治郎,鈴木さよ『グラフィックファシリテーションを用いた場の活性化の試み』,
情報コミュニケーション学会第 24 回研究会 CIS24(2018.7.14)

 

 

 

目的とグラフィックの導入場面

今回、全ての研究発表と講演に導入し、さらに、2日目の基調講演では、明治大学よ阪井先生の協力により、グラフィックファシリテーションを活用したOST(オープンスペーステクノロジー)が実現しました。

本取り組みでは、情報コミュニケーション学会第 15 回全国大会(以降、全国大会)において、参加者によ る対話や議論の活性化を促すことを目的に、すべての 一般研究発表と講演にグラフィックを取り入れ、場の活性化と登壇内容の共有を図ることを試みた。

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懸念点・不安な点もたくさんある中で、それでも「話の見える化」の可能性を模索しながら目的に向けて試行錯誤しました。

2 懸念されたこと 全国大会でグラフィックを用いる場面は、「一般研究発表」「基調講演・招待講演」「参加型ワークショッ プ」の 3 場面を計画したが、最も導入を懸念した場面は一般研究発表である。一般研究発表で行われる発表内容は、すでに構造化されていることに加え、多くの登壇者は事前に発表の練習を行い、感情の起伏も少ない状態で行うことが一般的である。登壇者の思いやその発表を聞いている参加者の反応など、その場を描きとり対話へ誘導するグラフィックファシリテーションには不向きの場ともいえる。また、グラフィックを描くグラフィッカーと登壇者が事前に打ち合わせを行うことが困難な状況にあることも大きな不安材料のひとつである。

さらに場の活性化には、主催者や参加者のグラフィック活用への理解も大きな影響を与える。著者らの経験によれば、グラフィックを用いれば必ずすべての場が活性するわけではない。例えば、発表者からは「描 いた絵は発表内容と異なる」「もっときれいに描いてほしい」などのクレームが入ることも少なくない。また、主催者のグラフィック導入の目的が曖昧であったり、 導入目的が参加者に伝わらず、グラフィッカーがパフォーマーのように扱われたりするなどグラフィックが 不本意に扱われてしまうこともある。

 

 

グラフィッカー同士のチームビルディングを通じて、事前に打ち合わせを重ね、グラフィックチームが入る目的や、チームとしてのグランドルールなど必要なことを事前に検討しました。グラフィックファシリテーションでは、感じとったことを描くので、チームとして機能するためにお互いの価値観や不安なことを共有しておく重要性を感じています。

3 大会に向けて

3.1 グラフィッカー間との理解

全国大会に向けて10 代から50 代までの年齢、職種等様々な15 名のグラフィック経験者が集まり、チームを結成した。チームを結成するにあたり、当学会で取 り扱われる専門知識が不足している、連続して描くこ とが初めて、学会への参加自体が初めて等、メンバー 間の多様性が明らかであった。一人ではできないことを実現させ、チームとしての良さを最大限に発揮する ため、事前に各々の不安を明確にして助け合うプロセスの準備やチームビルディングに時間をかけた。また、「なぜ描くのか」「描くことを通じてどのように学会に貢献するのか」を明確にするために話し合いを重ねた。言葉では表現できない熱量や話し手の想いを描くグラフィックファシリテーションの技術については、全国的に活用される場面が増えてきているものの、参加者の中には初めて見る人も多いことが予想された。グラフィックの成果は絵ではなく、グラフィックを描くという行為を通じて生まれる「場の活性」や「立場を越えた人々の対話」であることが伝わるよう、事前準備だけでなく当日についてもいくつかの工夫を行った。

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グラフィッカー同士で描きあう様子

 

 

主催者側からみたグラフィッカーとのやり取り

3.2 主催者とグラフィッカーとの理解

大会の4ヶ月前から主催者とグラフィックチームの代表らでミーティングを重ねた。著者らの経験ではグラフィッカーが企画段階から打ち合わせに参加するこ とは非常に希であり、ミーティングではグラフィックを導入する目的を確認するとともに参加者への理解を促し、対話が活性化するための工夫について話し合った。例えば、受付時にはグラフィックログインを用意し、参加者とグラフィッカーとの接触を試みる。一般研究発表と基調・招待講演においては、グラフィック レコーディングとして場を記録し、大会期間中は描いたグラフィックを人通りの多い場所に展示し、対話の機会を誘発する。さらに発表セッションの最後に振り 返りの時間を設け、付箋紙などを用いて対話の機会を つくる。参加型ワークショップでは、グラフィックフ ァシリテーションとして、場を盛りあげ、対話の活性 化を促す。など場面におけるグラフィックの役割や活用方法についてアイデアを出し合った。

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どのような場になったのか

4 大会を終えて
全国大会には、約 180 名が参加し、56 組の一般研究 発表が行われた。登壇者からは、「自分の発表をグラフィックにしてくれてうれしい」「自分の発表がどのように伝わっているのか具体的に確認することができ、自 己内省に役立った」「これまでの発表と比べより多くの 方から声をかけてもらうことができた」などグラフィック活用に対して好意的な意見が多く聞かれた。 また、情報交換会の参加者からは「この場がパネル 発表の会場のようでよい」「グラフィックがあることで会話がはずんだ」「振り返りの場となった」などの意見が聞かれた。さらに参加型ワークショップの参加者からは「はじめてグラフィックファシリテーションを目にしたがとても対話がはずむ仕掛けであることを体験 した」「是非、職場でも取り組みたい」などオープンス ペーステクノロジーとグラフィックの組み合わせに良 い印象を得たとの意見が多く聞かれた。 一方、グラフィックレコーディングを長く活用されている方々からは、一般研究発表におけるグラフィッカーの役割が不明瞭であったとの意見があった。

 

研究発表では、以下のような内容を口頭で付け加えています。


・一般研究発表での導入にあたって発表内容やグラフィッカーの力量など、いくつかの要因によって状態にバラツキが見られた


また、質問として以下のような声もいただきました。


・グラフィッカーと発表者との議論は活性化していたように思うが、発表者同士の議論にまで到達できていなかったセッションも見られた


・グラフィッカーが発表内容を十分に理解できていないシーンが見られた

 

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見た目が華やかだからこそ大切にすることをしっかりと握っておきたいこと

ただし、グラフィックには華やかさがあり、イベント性が強いことからグラフィックを取り入れることで場が活性化しているように感じてしまう功罪がある。グラフィックファシリテーションの成果は描かれた絵で はなく、グラフィックを描くという行為を通じて生ま れる「場の活性」や「立場を越えた人々の対話」であり、何より参加者がその場に「参加した」と実感できることが対話の活性や次のアクションとしての共創につながるとすれば、これはそもそも当学会が目指している研究大会の姿のひとつでもある。

 

いろんな考えの方がいて、心地よさも一人ひとり違う。描くことがよりよい場づくりに繋がる可能性もあるけれど、きちんと目的を考えないと、描くことが目的になってしまうと本末転倒。

 

 

今回の学会を通じて

グラフィックを描く人間は、描くだけでなく、グラフィックのパワルフルさや、主催者のニーズにあわせた活用方法を提案するといった場に関わる責任がある、と、以前よりも強く感じるようになりました。毎回試行錯誤ですが、丁寧な場づくりを心がけていきたいです。

 

最後まで読んでくださりありがとうございます

拙い文章、最後まで読んでくださりありがとうございます。長々と小難しいことも書きましたが、楽しくグラフィックを描くことはわたしはすごく素敵だと思っています。そして、同時に何か行動を起こすということは、誰かの価値観に触れて批判されることもあるし、無意識に誰かを傷つける可能性も含んでいると感じています。本文章が、一人ひとりができるだけ心地よく生きていけるためのヒントの「ヒ」くらいになれば幸いです。

 

 

心から感謝しています

グラフィックチームに対して終始丁寧な配慮をしてくださった畑先生に心から感謝しています。大切にしていただける場に携われたことで、この時に参加していたメンバーがその後もさらに活躍の幅を広げるエネルギーに繋がっているように感じます。

 

最後に、初めての試みの中、一緒に悩み考えてくださったグラフィックチームのみなさんに、もう一度、ありがとうございました!!